2026.1.30
【特集081 ASEANにおける人的交流とエンパワーメント】
ミャンマーに生まれ、日本で芸能界デビュー。俳優、歌手、さらに映画監督として世界を舞台に活躍している森崎ウィンさん。2025年に日本国籍を取得し、2つのルーツをもつ森崎さんが、世界をつなぐエンターテイナーとしてこれからの目標を語ってくださいました。
――2025年、日本国籍を取得されました。大きな決断だったのではないでしょうか。
森崎ウィンさん(以下、森崎):日本は僕を芸能界へ導いてくれた場所で、ここに来なければ今の自分はいません。エンターテインメントは国境を越えて人の心に届くもの。だからこそ、もっと活動の幅を広げていきたいし、それが応援してくれる人たちへの恩返しにもなるはず。そう考えて決断しました。
これまで仕事のために海外へ行くにも、ミャンマーのパスポートでは多くの国でビザが必要で、取得まで時間がかかりました。仕事に間に合わせるために、マネージャーさんをはじめ、多くの関係者が奔走してくださった現場がいくつもありました。
こうした状況の中で、自分がどこを拠点に表現を届けていくべきかを改めて考えるようになったのです。日本国籍を選んだのは、より自由に世界へ向けて発信し、関わるすべての人に責任をもって向き合うための覚悟でもあります。
――俳優としては、ご自身初のハリウッド映画出演作品であるスティーヴン・スピルバーグ監督の『レディ・プレイヤー1』(2018年)が、一つの転機になったのでしょうか。
森崎:そうですね。9歳のときミャンマーから日本に移住して、14歳のときにスカウトされて日本の芸能界に入り、10代でテレビドラマ『仮面ライダーW』や邦画『ごくせんTHE MOVIE』などの話題作に出演させていただいたのですが......。その後はオーディションを受けてもなかなか成果が出ない日々が続いていました。
そんな中、26歳の時、スピルバーグ監督が自ら行った『レディ・プレイヤー1』のオーディションに合格できたことは本当にうれしかったです。意気揚々と撮影に臨んだものの、撮影場所のイギリスでは、何もできない自分と向き合い続ける日々でした。
初めてのイギリスで、そのうえ海外の撮影のルーティーンもまったくわからない。ネイティブスタッフと同じような英語を話せるわけではない。「世界は広くて、上には上がいる。自分はこんな技量しかないのに、何が俳優だ」って。でも、次の日には「やってやるぞ」と自分を奮い立たせて、ホテルと撮影場所を往復する毎日を4カ月続けました。
撮影が終わるとスピルバーグ監督に「ウィン、(俳優を)続けて。また現場で会おうね」と言われて。その一言は、「目の前のことを一生懸命やり続けるのが大事」と僕には聞こえたのです。この道を極めていこうと思った瞬間でした。
『レディ・プレイヤー1』には1980年代のポップカルチャーへのオマージュが随所に散りばめられている。漫画『AKIRA』のバイクやハローキティなども登場する日本にも関わりが深い作品で、森崎さんは主要キャストのダイトウ役に抜擢された。(C)2018 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited and RatPac-Dune Entertainment LLC. All rights reserved.――映画『レディ・プレイヤー1』での活躍ぶりは、世界各国に届きました。
森崎:ありがたいことに、ハリウッド映画に出演したことで日本以外にもミャンマーを含むアジア各国でのお仕事がかなり増えました。2020年に発表した平原綾香さんとのデュエット曲「MOSHIMO」(2020年の配信後、ミャンマーのチャートで1位を獲得)、2025年にはベトナムの人気バンドChilliesとのコラボ楽曲を制作するなど、音楽活動でもたくさんの機会をいただいています。
俳優は脚本家や監督、プロデューサーの頭の中にあるストーリーを自分自身で表現する、いわば表現を具体的にする立場です。音楽活動は楽曲制作から曲選びまでゼロから自分で行うイメージです。音楽は、より自分のリアルな人生とリンクしている感じがしますね。
――そして、2024年には初監督を務められたミュージカル映画『せん』(※1)がアジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2024」(SSFF & ASIA 2024)で、グランプリ「ジョージ・ルーカス アワード」を獲得されましたね。
森崎:いつか映画を撮りたいと思っていたんです。近年はミュージカルのお仕事も多く、自分で撮るならミュージカル映画だと考えていました。しかも、日本発のオリジナル作品にしたいという思いで挑みました。
(監督として)自分が信じたことを出し切ることで、その熱量や思いは伝えられるんだという確信を持つことができました。そして、一期一会のメンバーと作品を作り上げる尊さを改めて実感しました。また機会があれば、監督にも挑戦したいですが、僕にとっていまはまだその時期ではありません。ですが、いつか作品を通じてミャンマーと世界をつなぎたいですし、それが自分にしかできないことでもあると思っています。
114の国と地域から約5,000点の応募作品が集まった 「SSFF & ASIA 2024」(2024年6月)のアワードセレモニーにて。写真提供:ショートショート実行委員会 / ショートショート アジア実行委員会
――2025年10月に公開された向井康二さんとのW主演作、映画『(LOVE SONG)』は、タイ人のチャンプ・ウィーラチット・トンジラー監督のもと、タイでロケが行われました。タイでの映画制作はいかがでしたか。
森崎:体調管理も仕事のうちなので、海外でのロケ滞在中の水や食事はいつも以上に気を使います。ただ、タイの気候や料理の味付けは、小さい頃過ごしたミャンマーに近く、懐かしさも感じました。それにタイにはミャンマーの方がたくさん住んでいて、街では「ウィンだよね!がんばって」と声をかけていただくこともありうれしかったですね。
撮影では、タイの人はよく褒めてくれるのが印象的でした。監督に限らずスタッフの方も「すごくよかったよ!」と声をかけてくれるし、撮影を見ていた通りがかりの人までも「Good job!」と言ってくれることもありました(笑)。日本ではそこまでオープンに褒められるという経験がなかったので新鮮でした。
撮影初日は日本なら自己紹介から始まりますが、タイでは一切なく、現場に入るなり監督が「ウィン、そこに座って。じゃあ最初のシーン。ヨーイ、ハイ」っていきなり本番撮影が始まったんですよ。内心戸惑いつつも演じてみたのですが、さすがにその時は照明さんが準備できておらず撮り直しになりました(笑)。
国による制作スタイルの違いを上げればきりはありませんが、自分の常識が必ずしも通用しないと理解しておくことの大切さは、海外での仕事を通して学びました。自分の価値観は大切にしながらも、それぞれのやり方を尊重し、柔軟に対応するのは得意です。
「エンターテイメントは平和の上に成り立つもの」と語る森崎さん。
Snow Man向井康二とW主演の日タイ合作映画『(LOVE SONG)』(2025年10月31日公開)は公開初登場2位を記録。タイでも11月より上映を開始した。写真はタイ公開時のポスター。©2025『(LOVE SONG)』製作委員会
――さらなるご活躍が楽しみです。今後、挑戦したいことや将来の目標はありますか。
森崎:以前、仕事でアフリカのウガンダに行き、ボランティアの方々と一緒に子どもたちと交流する機会がありました。子どもたちにはあまり英語が通じませんでしたが、僕がギターを弾きながら歌い始めたら、みんなが寄って来て歌い出し、お互いの距離が一気に縮まったんです! その時、すごく感動して音楽ってすごいな、エンターテインメントの力ってすごいなと身を持って知りました。
2024年1月に訪問したウガンダで。現地の子どもたちと歌と音楽でつながった瞬間。(森崎ウィン公式YouTube「【WORLD】In Africa②」より)
エンターテイナーとしてもっと活躍できるようになったら、世の中の役に立つ活動をしていきたいと考えています。自分で現地に行って、一緒に歌を歌い、仲良くなる―そして話を聞き、手助けできるようになるのが理想です。
エンターテイメントは平和の上に成り立つもの、歌や踊りなどの芸術・文化は、国境を越えて人の心に届くものだと信じています。だからこそ、国内外を問わず芸能活動を続けていきたい。エンターテイメントを通じて人と人をつなぐ、その一端を担えたらうれしいです。
(※1)
『せん』あらすじ...田舎暮らしをするおばあさん(中尾ミエ)のいつもの一日が始まる。ちゃぶ台で役場の若者(鈴木伸之)と朝食をとり、縁側で配達員とお茶飲み話をする。そんないつもと変わらない日常に、微細な不協和音が聞こえてくる。タイトルの『せん』には、「人と人の間にある"線"や、戦争の"せん"といった意味を込めています。わかり合えていると思っても、いつの間にか溝ができていたり、争いが始まってしまったり。そんな歯がゆさを描いたつもりです」と森崎さん。
森崎ウィン
俳優・アーティスト。1990年、ミャンマーに生まれ、9歳で来日。2018年公開のスティーヴン・スピルバーグ監督の映画『レディ・プレイヤー1』で主要キャストに抜擢される。2020年、映画『蜜蜂と遠雷』で第43回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。国内外の作品に多数出演するほか、歌手としてはMORISAKI WIN名義で活動。2024年には初監督作の短編映画『せん』で「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア 2024」のグランプリを受賞した。また、2018年よりミャンマー観光大使を務める。
X: @win_morisaki_
Instagram: win_morisaki_official
YouTube: MORISAKI WIN / 森崎ウィン Official
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